本レポートでは四つの精神・行動の障害、三つの不適合・問題行動について説明する。 精神・行動の障害「精神分裂病」  「統合失調症」と呼称を改められた病気。旧呼称から連想される人格の分裂が生じるものではなく、妄想や幻覚を症状とする。  例えば「誰かに狙われている」など俗に言う被害妄想のような妄想や、それに基づく幻覚、幻聴が症状。症状の重度は幅広く、普通の社会生活を送る人も、入院を含めた治療を要される人もいる。主な発症年齢は思春期から二十代半ばまで、生涯発病率は約0.85%と言われ珍しい病気ではない。薬物治療等により症状を緩和でき(寛解と言う)、通常の社会生活に復帰することも可能。子どもの発病は稀と考えられていたが、現在では小中学生でも発症例が見られる点に、教員であれば注意を要する。 精神・行動の障害「気分障害」  うつ病、そううつ病に代表される、気分の変調によって身体に不調や日常生活に支障を来す病気である。  気分障害の8〜9割をしめるうつ病はストレスが原因だとされ、誰でも罹患する可能性がある。気分の沈んだうつ状態が継続し、物事に興味が持てない症状を示す。そううつ病はいわゆる「ハイ」な状態と混在になるもので、割合は1割程度と少なく、原因は不明ながら遺伝的影響が強いと言われる。二十代で発症する例が多く、思春期前には存在しない言われていたが、現在では発症が確認されている点に教員であれば注意を要する。薬物療法や心理療法により治療が行われる。 精神・行動の障害「外傷後ストレス障害」  何らかの災害、事故等、恐ろしい出来事にあった後、その恐怖が再現(フラッシュバック)され不安等に苛まれ、生活に支障を来す病気。俗に言うトラウマの重度な状態である。  当人にとって恐ろしい出来事の後に発症するため、発症に年齢や性別は影響しない。災害や事故だけでなく、性的暴力や家庭内暴力を原因としても発症しうる。教員であれば生徒たちが例えば暴力を受けていないか注意をすることで、予防に寄与できるであろう病気。治療には薬物療法と心理療法が併用されるが、回復は難しいと言われる。 精神・行動の障害「神経性無食欲症」  俗に言う拒食症。何らかの精神的要因から食べることを身体が拒絶し、栄養不足から死に至ることもある病気。  国内ではダイエットをきっかけに罹患することが多く、児童・生徒の年齢層において女性の発病が多い。ダイエットの場合であれば「痩せている女性が好まれる」という社会通念、つまり社会的要因を原因に含むため、社会を変える力を有する教育が長期的には予防に寄与することができるであろう病気。治療回復は難しいと言われる。 不適応・問題行動「不登校」  任意の期間、継続的に学校に通わなくなる行動。  かつてアメリカを中心に増加、「学校恐怖」と呼ばれ恐怖症の一種とされていたが、近年では恐怖症にとどまらない多様なケースが見られる。文部科学省では七タイプに分類しているが、分類方法よりも、七種もあることに注目したい。不登校に至る、あるいは不登校を継続する理由は個人個人で異なるばかりか、時期によって変わることもあり、安易にタイプ分けできるものではないと言える。  不登校は概ね、環境変化や友人関係でのトラブル等を原因で休んだ後に始まる。その後、登校直前に身体の不調から欠席するようになり、欠席が常態化し不登校に至る。次には怒りやイライラ感を暴力に向ける時期を経て、最後にはいわゆる引きこもりとなることが多い。 不適応・問題行動「いじめ」  自分(自分たち)よりも弱いものに対して一方的かつ継続的に攻撃を加える行動。  1980年代半ば、そして1990年代半ばにピークを見せた問題行動の一つである。攻撃の加え方は暴力のように物理的かつ積極的なものや、無視や仲間はずれなどが挙げられる。昨今では携帯電話によるいじめが取りざたされることも多いが、手段が新たになったに過ぎず、誰かを攻撃しているという根本に変化はない。  原因は様々に言われ特定されていないが、社会の価値観や環境の変化により、人間関係をうまく作れなくなっていることが原因の一つだとする説がある。学校における人間関係には教員も含まれており、「いじめを知らなかった」という話を聞くことから、教員すら人間関係の構築に失敗していると見ることもでき、根は深い。いじめの発見は容易でないが、児童・生徒を注視することにより発見できるケースもある。 不適応・問題行動「校内暴力」  校内において暴力行為に及ぶ行動。  近年増加傾向にあることは事実だが、以前より確認されている問題行動の一つである。しかし、1980年代頃の校内暴力と、現在のそれとでは内容が異なる点に注意が必要である。かつてはいわゆるツッパリグループと呼ばれる特定の生徒の行動であり、学業面での不適応から起こるものとされていた。現在は特定の生徒ではなく、いわゆる普通の生徒が突発的に暴力に至るケースが確認されている。この場合、学業面での不適応という原因が当てはまらない場合も多い。原因は様々に言われ特定されないが、暴力は自己主張であるという説等がある。根本的な対応は難しい状況にあるが、暴力を許さないという教育的な強い対応が教員には求められる。 参考文献 吉田辰雄, 大森正『教職入門 ―教師への道―』, 図書文化社, 1999年 大芦治『教育相談・学校精神保健の基礎知識』, ナカニシヤ出版, 2000年 文部科学省『平成20年度 学校基本調査速報』 文部科学省『不登校問題に関する調査研究協力者会議 答申 今後の不登校への対応の在り方について(報告)』, 2003年